自省録2

2018/1/18 「村上春樹と私」ジェイ・ルービン 3

【走った距離】  8.7km
【今月の累積距離】  241.63km
【ペース】 平均 6'37"/km、 最高 6'11"/km
【天気】 晴れ
【気温】 最高 13℃、最低 7℃
【体重】  65.7kg
【コース】自宅~会社
【コメント】
 村上春樹の作品の翻訳者であるハーバード大学名誉教授のジェイ・ルービンが、
 村上春樹作品や日本文学の翻訳について語る。

 本日は海外から観た村上春樹の人気と本人が決して言わないエピソード。

 ■世界の作家となる村上春樹

 村上さんの55歳の誕生日に合わせて刊行された村上春樹編
『バースデイ・ストーリーズ』は、日本人作家が今までにない形で世界的文学者として
 登場したことの記念となった。大江健三郎も三島由紀夫も西洋読者向けに日本文学の
 英語版を編んでいるが、英語圏の読者向けに英米作家の作品を選んで解説する機会が
 日本人作家に与えられたことはなかったと言える。
 同書には村上さんの短編を含む12編が収められている。村上さんのほかにウィリアム・
 トレヴァー、ラッセル・バンクス、ポール・セロー、レイモンド・カーヴァー、
 デニス・ジョンソン、イーサン・ケイニン、デイヴィッド・フォスター・ウォレス、
 アンドレア・リー、ダニエル・ライオンズ、リンダ・セクソン、ルイス・ロビンソン、
 クレア・キーガンが収録されている。日本語版はおおむね翻訳された作品からなり、
 楽しく、心を乱されもする村上さんの作「バースデイーガール」だけが
 もともと書かれた日本語のまま収録されている。一方、英語版における翻訳作品は、
 村上さんの短編だけだ。それ以外の作品は、村上作品が大いに滋養を得た言語で
 書かれている。村上さんの紹介文は収録された作家たちをめぐる私的洞察と
 鋭いコメントに満ち、日本人ではない読者に向かって気軽に自信をもって語りかけている。
 読者にとっては村上春樹という作家の国籍はほとんど関係なく、
 文学の重要な発言者として村上さんの立場を受け容れている。
 実際、この英語版が特に驚かれもせずさりげなく誕生したこと自体、
 村上さんが今や海外でどれほど自然に受け容れられているかを示している。
 平安時代ものを描く芥川、芸者と茶会を描いた川端、
 自己犠牲的な現代のサムライを描く三島を歓迎した異国趣昧とは一切無縁なのだ。
 この本が生まれるきっかけとなったのは、ニューヨークで村上さんのエージェントを
 務めるアマンダ・アーバン氏とイギリスにおける出版者のクリストファー・マクレホーズ氏
 との会話だった。マクレホーズ氏はアーバン氏に、『海辺のカフカ』の英訳完成を
 待っている間に、イギリスで村上作品を出したい、と話した。
 日本語版『バースデイ・ストーリーズ』は日本人読者向けだから、
 通常ならアーバン氏は知らないはずの本だったが、
 収録されたアメリカ人作家数名の代理人として事務所が掲載許諾を扱っていたため、
 彼女は村上さんがこの本を作ったことを知っていた。そこでその英語版を提案し、
 マクレホーズ氏がそれに乗った。
 アーバン氏は「現在イギリスでも春樹人気は高く、春樹が編集したアンソロジーも
 じゅうぶん信頼してもらえるはずだから、たいした冒険には思えませんでした」と語った。
 要するに、彼女にもイギリスの出版社にもきわめて当然の企画に思えたというわけだ。
 だが、近代日本文学史の見地に立てば、これはほとんど革命的な展開である。

■ファンが溢れる春樹講演会

 2005年5月から1年間、村上さんはハーバード大学ライシャワー・インスティテュート
 からの招待で、アーティスト・イン・レジデンスとなった。インスティテュート内の
 広々としたオフィスも提供された。

 村上さんがハーバードにいるという情報が流れた途端にアメリカ各地から講演依頼が
 殺到したのは言うまでもない。また、国内は言うに及ばず、ドイツ、イギリス、
 ニュージーランドからも報道関係者がインタビューにオフィスに押し寄せてきた。
 通りに出れば、村上さんだと気が付いた人が話しかけてくるという具合で、
 1993年から95年まで同じケンブリッジに滞在した時とは劇的な対照をなしていた。
 村上春樹は今や、押しも押されもせぬ世界的な作家となったのである。
 2005年10月6日、マサチューセッツエ科大学(MIT)の作家シリーズで
 村上の朗読会が行われた当日、事態は絶頂を迎えたかの感があった。
 このシリーズに招かれるということはとりわけ名誉なことである。主催したのは、
 通常の日本文学科ではなく、創作科と人文社会学科であった。
 今までに招かれた作家たちは、マイケル・オンダーチエ、スーザン・ソンタグ、
 サルマン・ラシュデイ、ペン・オクリ、ソール・ペロー、ジョナサン・レセム、
 ラッセル・バンクス、ジュンパ・ラヒリ、バリー・ユアグロー、ポール・オースター、
 シンシア・オージック等の鈴々たるメンバーである。
 当日になり、イベント担当者は驚愕した。今日まで、広く名前を知られた作家と
 言えども、大学の最大会場であるこのホールを満員にする心配はなかったのであるが、
 講演が始まる数時間前に、会場の全席、500席はすでに埋め尽くされていただけでなく、
 内部のすべての通路も、演壇を囲むステージエリアも歩く隙間もないほどに、
 ぎっしりと人々が座り込んでいたのである。
 会場の外では、ホールの入り口に至る廊下も満員で、大学警察によれば、その数、
 約1300人だということであった。さらに悪いことには、その日が10月には
 珍しい酷暑日で、満員の聴衆で熱気がむんむんする上に、
 ホールの冷房装置が壊れるという思いがけない惨事が起きた。
 会場内にいる「幸運な」人々は汗を乾かすべくプログラムをうちわ代わりに使うという
 始末であった。
 そうこうしているうちに朗読時間が迫ってきたのであるが、突然、大学の消防署長と
 名乗る男が壇に上って、火災法によって、席についている500人は残っていてよいが、
 それ以外は全員、通路と床を空けて退散するようにと声を張り上げた。
 皆が出ていくまで朗読会は始められないと。
 聴衆からうめき声があがり、それでも、仕方なく出ていく人々の中には涙を
 流している者もいた。彼らは外の廊下にいた人たち、さらに遅れて来た人だちと合流した。
 退出させられた人の一人は「私はインターネットでこのイベントを知って、
 オハイオ州シンシナティから飛行機ではるばるやって乗だのに」と訴えた
(会場に残ることができたある女性は、その後質疑応答に参加して、自分は何人もの友達と
 1台の車に乗り込んでバージニア州からやって来たと言った)。
 聴衆は大学生くらいの年代が圧倒的に多く、アジア系が多かったが、
 実にさまざまな年代と国籍の人々からなっていた。
 人々が退場した後、村上さんは入場を許された。薄いグレーのスポーツコートの下は
 "Pickle"の文字が入った深緑のTシャツ、靴はトレードマークのランニングシューズと
 いう格好である。換気の悪さと人々の熱気は耐え難く、村上さんは、スポーツジャケットを
 脱いだ。Tシャツは汗でべったりと惨んでいる。そうこうするうちに、
 小説家ジュノ・ディアズの村上さんの紹介で会が始まった。
 「村上さんは世界の実体を見せてくれます。しかも私たちが見たことのない世界の
 実体ではなく、私たちがそれとは知らずに日々見ている世界を見せてくれるのです」
 拍手が鳴りやむと、村上さんは東京では、無名で過ごすことが難しい有名作家としての
 いくつかのエピソードをユーモアたっぷりに流暢な英語で語った。続いて、
「かえるくん、東京を救う」の一部を朗読した。聴衆が日本人でない朗読会では必ず、
 原文の響きを示す一端として、まず日本語で数ページ読んでから、
 同じページを英語で読み、その後は英語を母国語とする読み手に引き渡す
 というのが通常の村上さんの方針である。
 今回は詩人のウィリアム・コルベット氏がその役を引き受けた。
 一部のファンの熱狂的歓迎と、参加できなかった人々の大いなる失望で終わった
 村上さんの朗読会は、MITの作家シリーズの歴史に残る一大イベントであったに
 違いない。この後も、各地での講演を精力的にこなした村上さんは、
 11月18日、ハーバード大学で、アーティストーインーレジデンスの義務で
 ある講演を行った。思えば、10年前、タフツ大学に滞在中の村上さんは、
 同じくハーバード大学で講演したのであるが、その時の聴衆は約40名だった。
 そして、そのほとんどが日本人学生か日本文学を勉強している学生、
 あるいはボストン近郊の在留邦人だったので、日本語での講演であった。
 それが、今回は主催者がライシャワーセンター並びにハーバードブックストアで、
 英語での公開講演である。先日のMITでの大混乱を目撃していたので、
 その二の舞とならぬようできる限りの大きな会場をということで、
 大学側はキャンパスの近くの教会を用意した。さらに超過人数を予想して、
 チケット制を導入することにした。教会の大ホールの収容人数は600人。
 ホールに隣接する2部屋をケーブルテレビ回線でつなぎ、
 総計約800人対応の体制を整えた。
 それでも、ブックストアの抽選に漏れた人、ライシャワーセンターに応募して
 断られた人の数は1000人以上に上ったという。余談ではあるが、
 例のシンシナティから来たご婦人もチケットを手に入れ、村上さんにサインも
 してもらえたとのことである。


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by totsutaki3 | 2018-01-18 22:09 | 読書 | Comments(0)

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